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福岡高等裁判所 昭和61年(ネ)325号 判決

控訴人

破産者毛井安敏破産管財人

後藤博

被控訴人

公立学校共済組合

右代表者理事長

安養寺重夫

右訴訟代理人弁護士

小野孝徳

主文

一原判決を取消す。

二被控訴人は、控訴人に対し、金四九〇万六〇一七円及びこれに対する昭和六〇年三月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四この判決は、主文二項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文一項ないし三項と同旨の判決並びに二項につき仮執行の宣言

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  控訴人の請求原因

1  訴外毛井安敏(以下「毛井」という。)は、昭和五九年一二月一七日大分地方裁判所において破産宣告を受け、控訴人が破産管財人に選任された。

2  毛井は、大分県立別府鶴見丘高等学校の教員をしていたが、昭和五九年一〇月三一日をもつて退職した。大分県教育委員会教育長は、同年一一月一四日、毛井に対し退職手当金六六九万八五一五円を支給する旨の裁定通知をし、毛井は右退職手当を受けることとなつた。

3  被控訴人は、毛井に対して貸付金債権を有していたので、昭和五九年一一月一三日、前記高等学校長に対し毛井に対する貸付未償還金の控除支払を求めたところ、同校教職員に対する大分県の給与支給機関である同校資金前渡職員菅泉は、同月一六日、前記退職手当金から四九〇万六〇一七円を控除し、毛井に代わつて右金員を被控訴人に支払つた(以下「本件弁済」という。)。

4  毛井は、昭和五九年一一月八日大分地方裁判所に自己破産の申立をしたが、その数か月前から多数債権者に対する多額の負債につき支払停止の状態にあつた。

5  被控訴人は、本件弁済を受けた当時において、毛井が支払停止の状態にあること及び毛井がすでに自己破産の申立をしていることを知悉していた。

6  本件弁済は破産法七二条二号に該当する行為であるから、控訴人は、右弁済に対し否認権を行使する。

7  よつて、控訴人は、被控訴人に対し、被控訴人が本件弁済により受領した金四九〇万六〇一七円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和六〇年三月二三日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因にたいする被控訴人の答弁

1  請求原因1ないし3は認める。

2  同4のうち、毛井が大分地方裁判所に自己破産の申立をしたことは認めるが、その余は知らない。

3  同5は否認する。

4  同6は争う。

三  被控訴人の主張

1(一)  被控訴人は、毛井に対し、本件弁済を受けた時点で、地方公務員等共済組合法(以下「地共法」という。)一一二条一項四号に基づく福祉事業の一環の貸付金として、次のような未償還金合計七二八万八八七七円の債権を有していた。

(1) 昭和四九年三月二八日に貸付けた四五〇万円の残元利金三五〇万六一九一円

(2) 昭和五二年四月二八日に貸付けた一〇〇万円の残元利金七七万七四〇三円

(3) 昭和五五年六月一二日に貸付けた八〇万円の残元利金三八万五五九五円

(4) 昭和五七年一一月二七日に貸付けた一〇〇万円の残元利金八四万七八四〇円

(5) 昭和五七年一二月二八日に貸付けた二〇〇万円の残元利金一七七万一八四八円

(二)  被控訴人の毛井に対する右未償還金債権の弁済については、地共法一一五条二項により、組合員である毛井の給与支給機関である大分県知事は、組合員が組合(被控訴人共済組合)に対し支払うべき掛金以外の金員(未償還金)があるときは、給料その他の給与(退職手当も含む。)を支給する際に組合員の給料その他の給与から未償還金の額に相当する金額を控除し、これを組合員に代つて組合に払い込まなければならないことになつている。

(三)  毛井に支給すべき退職手当金六六九万八五一五円から所得税等の源泉徴収金合計一五万七一六〇円を控除した残額六五四万一三五五円は、本来ならば前記未償還金合計額に満たないのでその全額が地共法一一五条二項により未償還金の弁済に当てられるべきところ、前記退職手当支給の裁定日当時既に第三者から債権差押命令等の送達を受けていたため、大分県知事は右源泉控除後の退職手当の中から四分の一に相当する一六三万五三三八円を民事執行法一五六条に基づき昭和五九年一一月一六日大分地方法務局別府出張所に供託し、残余の四分の三に相当する四九〇万六〇一七円を地共法一一五条により被控訴人に払い込み、本件弁済がなされたものである。

(四)  そもそも、破産手続において差押禁止財産は破産法六条三項により原則として破産財団に属しないとされており、また、退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については民事執行法一五二条二項によりその給付の四分の三に相当する部分は差押が禁止されているのであるから、退職手当及びその性質を有する給与の給付の四分の三に相当する部分は破産財団とはならず自由財産とされている。そして、被控訴人が弁済を受けた四九〇万六〇一七円は、給与支給機関である大分県知事から一旦毛井に対して支払われた後に毛井が被控訴人に弁済したものではなく、破産宣告前に大分県知事が地共法一一五条二項により差押禁止債権の範囲内の退職手当債権から直接被控訴人に支払つたものであり、破産宣告がなされても自由財産に属するものとなるのであるから、本件弁済は破産法七二条二号の否認権行使の対象とはならない。

2  地共法一一五条二項による本件弁済は、破産者である毛井の意思とは関係なく、給与支給機関が法規にしたがつてなした行為であり、破産者の行為ではないから、破産者の行為を否認権行使の対象にしている破産法七二条二号に該当しない。

3  地共法一一五条二項は、組合の組合員に対する債権回収確保のために定められた相殺類似の特別規定であり、これに基づく弁済は、破産法七二条二号により否認権行使の対象とならないものである。

すなわち、被控訴人は、地方公務員法(昭和二五年法律二六一号)四三条に基づき、地共法三条一項二号により設立された共済組合であり、組合員の資格は特定され、組合の事務に要する費用は地方公共団体が負担するもので、組合員が給与の支給を受ける地方公共団体と組合員の共済を担当する共済組合とは表裏一体、不離の関係にあり、さらに組合員に対する貸付事業の資金は、社会保険である長期給付にかかる責任準備金を運用するもので、将来の年金給付に充当されるべきものであるから、貸付金回収手段の確保は組合員の福祉増進のための一環である貸付事業の促進拡充のため絶対必要である。

本来の相殺は、相対立する債権を有する相対立する当事者間の債権債務の決済方法として認められるもので、本件のごとく厳格には人格を異にし、相対立する債権債務ではないものの間では相殺は認められないのであるが、前記のごとく、給与支給義務者である地方公共団体とその職員により構成される組合とは表裏一体、不離の関係にあり、福祉のための貸付制度の促進拡充のため、貸付金等の回収確保の手段として、地共法一一五条二項を設け、給与等との相殺を認容する地共法四八条二項と相俟つて実質的に担保となつている給料、退職手当等によつて優先弁済を受ける相殺類似の効力を付与したものであるから、地共法一一五条二項に則る弁済については、破産法七二条二項の対象とならないものである。

なお、本件の地共法一一五条二項による相殺類似行為は、法定の原因に基づくものであり、貸付は破産申立前になされているから、破産申立の知・不知に関係なく、破産法一〇四条四号に該当しないものである。

四  被控訴人の主張にたいする控訴人の認否及び反論

1  被控訴人の主張1(一)ないし(三)は認める。同(四)は争う。

2  同2及び3は争う。

3  本件弁済は、関係法令の規定により給与支給機関である大分県知事が毛井に代わつて被控訴人に弁済したとみるべきである。もつとも、退職手当金債権の消滅は、被控訴人の口座に入金された時点であるが、本件弁済が右のような性質である以上右退職手当金を破産者である毛井が一旦現実に受領して被控訴人に弁済する場合(この場合は、毛井が受領した時点で民事執行法一五二条二項の適用がなくなる。)と比べ、差押禁止の関係で差異を生ずることを容認する合理性はないから、被控訴人が入金により弁済を受けた金額については、民事執行法一五二条二項の適用がなく、破産財団となるべき財産である。

ところで、破産法上の否認権の対象を検討する際、差押という偶然的な要素を重視して、差押が先行している場合に先行した四分の一の差押部分が破産財団を構成し、その余の四分の三が自由財産となりその処分が否認権の対象とならないというのは、あまりにも形式論理にとらわれた偏狭な見解であつて、偏頗な弁済を排除し公平な弁済を確保しようとする破産法の精神を踏みにじるものである。このことは、差押と任意弁済について、いくつかの類型を想定して検討してみると明らかとなる。

① 差押が先行せず、四分の三について一人の債権者が任意弁済を受け、その後四分の一について差押がなされた場合に、任意弁済が否認権の対象とならず差押は否認権の対象となると考えてよいのだろうか。

② 差押が全く無く、数人の債権者に次々と任意弁済が行われ、結局全部任意弁済された場合に、四分の三に達するまでの任意弁済は否認権の対象とならず残りの四分の一の部分は否認権の対象となると考えてよいのであろうか。あるいは初めの四分の一は否認の対象となり残りの四分の三の部分は否認権の対象とならないと考えるのであろうか。弁済の先後によつて否認権の対象になつたりならなかつたりしてよいものであろうか。

③ 本件のごとく差押が先行し、四分の三の任意弁済が後でなされた場合、後でなされた任意弁済が自由財産として否認権の対象とならないとし、先になされた差押が危殆時期における悪意の差押として否認権の対象となるのは公平性を害するのではないか。

④ それとも四分の一の差押と四分の三の任意弁済が存在する場合には否認権の対象はないと考えるべきなのかどうか。

破産法は、危殆時期という要素、悪意という要素、債権者間の公平性という要素を重視すべきであり、四分の三の部分の差押禁止というのは債務者の生活ないし生活権を考慮した考えに基づくものであることに思いを致すべきである。これに加えて本件は破産者の知らない間に給与支給機関たる大分県知事が被控訴人に毛井に代わつて任意弁済しているのであつて、質権等の優先権も無いのに被控訴人がかかる弁済を受けるのは債権者間の公平性を害すること著しいと言わねばならない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1ないし3について

請求原因1ないし3については当事者間に争いがない。

二同4について

毛井が大分地方裁判所に対し自己破産の申立をしたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によると、毛井は、昭和五九年以前から多額の借金をし、その返済資金を得るためさらに他から金銭を借り入れるという状態を続けていたが、同年七月ころからは全く金銭を借り受けることが出来なくなつていたこと、毛井は、同年一〇月一二日に妻と離婚したが、そのころには、債権者からの追及から逃れるため、住民票に記載された住所や勤務先に届出ていた住所には居住せず、所在を隠していたことの各事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、毛井は、遅くとも昭和五九年七月ころには支払を停止していたことが認められる。

三同5について

〈証拠〉を総合すると、昭和五九年七月ころから、毛井の勤務先である大分県立別府鶴見丘高等学校には毛井の債権者らから債権の督促の電話や手紙が頻繁にあり、そのため同校校長幸長生(以下「幸校長」という。)は、毛井が多額の負債をかかえてその支払ができない状態にあることを知つていたこと、幸校長は、大分県教育委員会の人事課長嶋津文男に右の状況を伝えて善後策を相談したところ、これを受けて右嶋津人事課長は、昭和五九年一〇月下旬ころ、毛井に対し任意退職するよう勧めた結果、毛井は、同月三一日退職したこと、毛井は、退職手当につき、昭和五九年一〇月一六日に別府市農業協同組合から債権額六五三万三五九八円の債権差押命令を、同年一一月二日に大分県労働金庫から債権額九〇〇万円の債権仮差押命令を受け、大分県知事はそれぞれそのころ第三債務者として右各命令の送達を受けたこと、被控訴人大分支部の事務局は大分県教育委員会の福利課内に置かれ、事務局長は福利課長、事務局次長は福利課長補佐の職にある者をもつてあてられており、同課は前記人事課と同様大分県総合庁舎六階の前記教育委員会事務局内に置かれていることの各事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実に弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人は、本件弁済を受けた当時毛井が支払停止の状態にあることを充分知つていたことが認められる。

四同6について

控訴人が、破産法七二条二号に基づき、本件弁済に対し訴をもつて否認権を行使したことは記録上明らかである。

五被控訴人の主張1について

被控訴人が、本件弁済を受けた時点で、毛井に対し、地共法一一二条一項四号に基づく福祉事業の一環の貸付金として、被控訴人の主張1(一)(1)ないし(5)記載のとおり合計七二八万八八七七円の未償還金債権を有していたこと、被控訴人の毛井に対する未償還金債権の弁済については地共法一一五条二項により毛井の給与支給機関である大分県知事は毛井が被控訴人に対し支払うべき掛金以外の金員(未償還金)があるときは給料その他の給与(退職手当も含む。)を支給する際に組合員(毛井)の給料その他の給与から未償還金の額に相当する金額を控除し、これを組合員(毛井)に代わつて被控訴人共済組合に払い込まなければならないこと、毛井に支給すべき退職手当金六六九万八五一五円から所得税等の源泉徴収金合計一五万七一六〇円を控除した残金六五四万一三五五円は、本来ならば前記未償還金合計額に満たないのでその全額が地共法一一五条二項により未償還金の弁済に当てられるべきところ、前記退職手当支給の裁定日当時既に第三者から債権差押命令等の送達を受けていたため、大分県知事は右源泉控除後の退職手当のうちから四分の一に相当する一六三万五三三八円を民事執行法一五六条に基づき昭和五九年一一月一六日大分地方法務局別府出張所に供託し、残余の四分の三に相当する四九〇万六〇一七円を地共法一一五条により被控訴人に払い込み、本件弁済がなされたことはいずれも当事者間に争いがない。

ところで、破産手続において、差押禁止財産は破産法六条三項により原則として破産財団に属さないとされているところ、民事執行法一五二条二項によれば、退職手当金債権については、その給付の四分の三に相当する部分は差押が禁止(なお、差押禁止債権の範囲の変更については民事執行法一五三条に規定がある。)されていることは被控訴人の主張するとおりである。

しかしながら、破産手続において、右退職手当金債権の四分の三に相当する部分について差押が禁止されるところから、この部分が破産財団に属さないとされるのは、破産宣告時において、退職者である破産者の退職手当金が退職者に給付されることなく、そのまま債権(退職手当金債権)として存在していることが前提となるのであつて、破産宣告前において、退職手当金の全部又は前記の四分の三に相当する部分が退職手当金の請求権者である退職者(破産宣告後の破産者)に支払われてしまえば、その支払を受けた退職手当金は、特段の事情のないかぎり、混合により退職者の一般財産に帰属することになつて、民事執行法一五二条二項の適用はなくなり、その後に破産宣告を受ければ破産財団となるべき財産であつて、自由財産となるべきものではない。したがつて、退職者が支払を受けた右退職手当金を特定の債権者に対する債務の弁済に供した後破産宣告を受ければ、右弁済が破産法七二条二号所定の否認の要件を充足するかぎり否認権の対象になることはいうまでもない。

そこで、これを本件についてみるに、本件弁済は、前記のとおり、毛井の給与支給機関である大分県知事が、毛井の破産宣告前に、毛井に帰属した退職手当金から第三者よりの債権差押命令等にかかる四分の一の部分の金員を控除した残金四九〇万六〇一七円を地共法一一五条二項の規定により、毛井に代わつて被控訴人に払い込んで支払つたものであつて、この支払は、後記六項説示のとおり、法律上は毛井が退職手当金を現実に受領して被控訴人に支払つた行為と同視できる行為にあたるといわざるを得ず、しかも本件において、本件弁済に供された退職手当金が破産宣告後自由財産に属するとの前記特段の事情があると認めるに足りる証拠は何もない。

したがつて、被控訴人の主張1は理由がない。

六同2について

前記事実によれば、本件弁済が破産者である毛井自らの行為によるものでないことは被控訴人の主張のとおりである。

しかしながら、前記事実並びに地共法の各規定によると、本件弁済は、大分県知事が、毛井に帰属した退職手当金から第三者よりの債権差押命令等によりその給付の四分の一に相当する部分を控除した残金でもつて、毛井の被控訴人に対する未償還金債務を毛井の意思に基づき毛井に代わつて被控訴人に支払つたものにほかならないのであり、したがつて、その弁済の効果も毛井について生じ、大分県知事による払い込みの完了により、その時点で毛井の被控訴人に対する右債務のうち払い込み額に相当する部分の債務が消滅するという関係にある。そうすると、本件弁済は、毛井自らの手により行われたものではないけれども、法律上は毛井が退職手当金を現実に受領して被控訴人に支払つた行為と同視できる行為にあたるといわざるを得ない。

したがつて、被控訴人の主張2も理由がない。

七同3について

被控訴人は、地共法一一五条二項は、組合の組合員に対する債権回収確保のために定められた相殺類似の特別規定であり、これに基づく弁済は破産法七二条二号により否認権の対象にならない旨主張する。地方公務員法、地共法の各規定によると、確かに、被控訴人は、地方公務員法四三条に基づき、地共法三条一項二号によつて設立された法人(共済組合)であり、その組合員の資格は「公立学校の職員並びに都道府県教育委員会及びその所管に属する教育機関(公立学校を除く。)の職員」に限られ、組合員が給与の支給を受ける地方公共団体と組合員の共済を担当する共済組合とは密接な関係にあり、さらに組合の組合員に対する貸付事業の資金は、社会保険である長期給付にかかる責任準備金を運用するもので、将来の年金給付に充当されるべきものであるから、貸付金回収手段の確保は組合員の福祉増進のための一環である貸付事業の促進拡充のため絶対必要であるところから、地共法一一五条二項の規定を設け、組合員の給料その他給与(退職手当も含む。)から確実に弁済を受けられるようはかつていることは被控訴人主張のとおりである。

しかし、組合員たる毛井が右給料その他の給与の支給を受ける地方公共団体たる大分県と組合員の共済を担当する共済組合たる被控訴人とは全く人格を異にするものであるから、毛井に対し債権はあつても債務のない被控訴人が毛井に対して相殺するということはあり得ないばかりでなく、地共法一一五条二項は、組合員が破産宣告を受けた場合に、破産者の財産を破産債権者らに公平に分配することを目的とする破産手続において、別除権を有しない組合たる被控訴人のみが他の一般の破産債権者らに優先して組合員毛井の給料その他の給与(退職手当金も含む。)から排他的独占的に弁済を受けたのと同様の結果を認める相殺類似の特別規定にあたるものとは到底解し難い。

したがつて、被控訴人の主張3はその前提を欠きこれまた理由がない。

八むすび

以上説示のとおりであつて、被控訴人は、控訴人に対し、否認権行使に基づき、本件弁済金四九〇万六〇一七円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和六〇年三月二三日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、控訴人の本件請求は正当としてこれを認容すべきである。

よつて、右と異なる原判決は不当であつて、本件控訴は理由があるからこれを取消し、控訴人の本訴請求をすべて認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官新海順次 裁判官山口茂一 裁判官綱脇和久)

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